武士の一分

久し振りに、良い映画を見た、と観賞後に素直に思えた素敵な作品だった。


木村拓哉山田洋次監督がタッグを組むと言うことで、公開前の盛り上げ方が凄まじかった本作品。正直、見るまでは「どうなんだろうな…」という気持ちがあった。けれど、実際に見てみると公開前の過剰な盛り上げ演出などどうでも良くなったというか、素直に映画の良さだけに気持ちがすっきり洗い流されたような、そんな印象を持てた。


夫婦の持つ確かな絆、相手を思いやる気持ち、そういったものを厳かな武家社会の中で少しずつ鑑賞者に訴えかけてくる、そんな本作。どんな役をやっても木村拓哉木村拓哉だ、という「色」が変わらないような個性を持つ彼が、本作品では自身のオーラを内側にきっちりと収めきっていたように演じていたのも印象的だったし、なにより彼が演じた三村新之丞が、一人の人間として、一人の武士として、最後まで自信の誇りと自分の大切な人の気持ちを守ろうとする様には素直に心を打たれた。盲目となり、訳あって一度妻と決別した彼が、武士の一分を守るべく立ち上がるシーン。庭で転がりながら懸命に剣を振り回す盲目の三村新之丞を見ていたら、じんわりと涙が目尻のあたりに。その後はことあるごとに涙腺が刺激されたわけで。
訴えかけてくるストーリー、つまり分かりやすく“綺麗な”ストーリーを最後まで丁寧に作り上げる山田監督はスゴイと思った。木村拓哉という強烈な個性を持つ役者をあそこまで見事に映画の作品の中に浸透させたのも見事だと思った(もちろん木村拓哉本人もスゴイと思う)。脇を固める役者陣の抑えの効いた演技、適度な緊張感が感じられるテンポ、とにかく良くまとまっていた作品だったと思う。


正直、うがった見方でちょっと敬遠していた自分だったけれど、そんな見方は意味がないと素直に思えた。是非、みんなにこの作品を見て欲しいと思う。武士の考え方は、歴史や伝記などで幼い頃から武家社会というものをちょっとでも学んでいる日本人にとって、とても大切なことを思いださせてくれるものだとも思うし。